トイレが詰まってしまった時、少しでも早く詰まりを溶かしたいという一心で、「熱いお湯を流し込めば、トイレットペーパーが早く溶けるのではないか」と考えてしまう人がいます。確かにお湯には物をふやかす効果がありますが、この「熱湯」という選択は、トイレ詰まり解消法の中でも最も危険で、絶対に試してはならない禁じ手の一つです。その一瞬の判断ミスが、詰まりの解消どころか、修理不可能な致命的なダメージをトイレに与えてしまう可能性があるのです。 トイレの便器は、一見すると頑丈な焼き物に見えますが、その主成分は陶器です。陶器の最大の弱点は、急激な温度変化に非常に弱いという点です。冷たい水が溜まっている便器に、沸騰したばかりの熱湯を注ぎ込むと、その接触部分だけが急激に膨張し、他の部分との間に大きな温度差が生じます。この時、陶器の内部には目に見えないほどの強い張力がかかり、その力に耐えきれなくなった結果、「ピシッ」という音と共に、便器にひび割れ(クラック)が入ってしまうのです。 一度ひびが入ってしまった便器は、もう元には戻りません。最初は小さなひびでも、使い続けるうちにそこから水が漏れ出し、床を濡らす原因となります。そうなれば、詰まりの修理とは比較にならないほど高額な、便器本体の交換費用が必要になってしまいます。詰まりを直そうとした結果、十数万円もの余計な出費を強いられることになりかねないのです。 また、熱湯はトイレの排水管にも悪影響を及ぼす可能性があります。多くの家庭で使われている排水管の素材は、熱に弱い塩化ビニル樹脂(塩ビ管)です。ここに百度近い熱湯が流れ込むと、配管が変形したり、接続部分が緩んだりして、床下など見えない場所での水漏れを引き起こす原因にもなります。 もし、お湯の力を借りたいのであれば、必ず人肌より少し温かい、40度から50度程度の「ぬるま湯」を使用してください。この温度であれば、便器を傷めるリスクを最小限に抑えつつ、トイレットペーパーをふやかす効果を安全に得ることができます。トイレ詰まり解消においては、焦りは禁物です。正しい知識を持つことが、二次被害を防ぎ、問題を確実に解決するための最も重要な鍵となるのです。
トイレ詰まり解消に熱湯は絶対に使ってはいけない理由